模擬講義

ナノレベルでの物作りの面白さ


理学研究科
林雄二郎先生
B204
10/29(土)10:30-11:30

有機化合物は私たちの身の回りのありとあらゆるところに存在し、有機化合物の合成にも、環境調和性が求められています。「有機触媒」の分野に昨年度のノーベル化学賞が授与されましたが、有機触媒について解説し、有機触媒を利用したインフルエンザ治療薬「タミフル」の簡便な合成法について紹介します。

Q.先生は自身の研究においてポットエコノミーという概念を提唱していますが、ポットエコノミーについて教えてください
A.ワンポット合成を利用して、効率的に目的化合物の合成を目指す化学のことです。ワンポット合成とは、一つの容器で連続的に合成を行う方法を指します。目的化合物を合成する際には何段階かの化学反応を行う必要がありますが、これまでは一つの反応が終わるごとに精製を行っていたため、作業に時間がかかっていました。しかし、私が考案したワンポット合成は化合物を取り出す作業がなく、一つの容器に化合物を加えていくことで目的化合物を合成することができます。ポットエコノミーを体現した例としてタミフルの合成が挙げられます。従来のタミフルの合成は植物由来のシキミ酸から合成され、多くの工程が必要でした。しかし、私は自らの開発した有機触媒(後述)を用いたワンポット合成を利用したので、従来の方法よりも少ない工程でタミフルを合成することに成功しました。現在、ポットエコノミーを提唱した私の論文はほかの研究者に多く引用されており、ポットエコノミーという概念は世の中に認められつつあります。

Q.ポットエコノミーの利点を教えてください
A.最近の世の中ではSDGsが注目されるようになりましたが、化学の世界でも環境調和型合成が要求されるようになり、環境に配慮した合成方法が必要になっています。ワンポット反応は精製過程を省略するので、精製に関わる溶媒や時間、コストを削減することができます。廃棄物も少なくなるため、ワンポット合成は環境調和型合成法と言えます。このような合成法を利用するポットエコノミーは、環境配慮の面から見ても優れています。実際に、ワンポット反応を利用した合成プロセスGSC(グリーンサステイナブルケミストリー)賞を受賞しており、環境に優しく持続可能な社会を支える化学として認められています。

Q.先生は触媒の開発も行っていますが、触媒の研究について教えてください
A.私の研究室では触媒の開発と有機化合物の化学合成を行っていますが、触媒は物質合成の鍵となります。有機化合物には同じ物質でも立体構造が異なる鏡像異性体があります。それぞれ人体への反応が異なるため、鏡像異性体の一方を作り分けることが必要になります。その作り分けに触媒が用いられています。日本は有機化学の分野に強く、日本人の名前を冠した触媒も数多くあります。実際に日本人は金属触媒でノーベル賞を取ったこともあります。去年のノーベル化学賞は不斉有機触媒の開発に貢献しList,MacMillan両博士に贈られました。私もこの分野に大きな貢献をしています。不斉有機触媒は金属を使用しないため安全であり、触媒自体も簡単に手に入ります。このような触媒を医薬品合成に応用しています。

Q.日本は有機化学の分野に強く、先生自身も研究者として世界に認められていますが、研究をリードし続けるにはどうすればいいですか
A.個人が大きい仕事をする際にはその周辺領域も高いレベルで発展する必要があります。文系の人にも言えることですが、それぞれの学問には大学の歴史と伝統があり、研究室や所属する先生のフィロソフィーが代々受け継がれています。良い研究には良い研究室の伝統とやり方があります。東北大学での有機化学研究の歴史と伝統に基づいて私は研究をしています。研究にはいろいろな要素が絡み合っています。一流の研究を間近で見られる環境に身を置くことが良い研究につながると思います。

渦は敵か味方か【宇宙の真理を活かす?】


工学研究科
茂田正哉先生
B204
10/29(土)13:30-14:30

私たちは渦に囲まれて生きています。渦はもしかするとこの宇宙の真理かもしれません。1万度のプラズマ流をつかう、今まさに「熱い」ものづくりプロセスにも渦が生じます。それは邪魔な存在か、活かせるものなのか。自然現象であり、人類社会にも大きく寄与する渦なるものを知ることで、世界の見え方を変えてみませんか。

Q.研究人生で一番大変だった時期を教えてください
A.大変だった時期はいくつかありますが、大学院の一年生(M1)の頃が一番大変でした。私は複数の学問分野の理論を組み合わせて一つの現象を説明することに関心があるため、様々な分野の学問を究める必要がありました。その勉強に着手したのがM1の頃で、とにかく勉強量が多くて大変でした。研究発表の締め切りがあるため、勉強時間に追われてとてもしんどかったことを覚えています。しかし、M1のときの勉強のおかげで学問の基礎が固まったので、M2や博士課程では研究が軌道に乗り、自力で研究を進めることができるようになりました。学会発表や論文の締め切りのために徹夜するなどの身体的につらい思いをしたことも多々ありましたが、研究のゴールまでの道のりはなんとなく見えていたので精神的には楽でした。M1のときはその道のりを探っている状態だったので、霧の中を進んでいるような感じで大変でした。

Q.東北大または仙台の印象を教えてください
A.東北大はほかの旧帝大に比べても地元率が低く、実はそれが最大の強みだと思っています。私は出身が仙台で大学も東北大でしたが、東北大在籍時はほかの地方出身の学生からそれぞれの文化を学ぶことができ、いろいろな情報を得ることができました。あとはキャンパス内に地下鉄の駅があることが便利ですね。また、仙台は都市の規模感がちょうどいいと思います。都会的な楽しみと自然あふれた田舎的な楽しみが両方そろっていて、バランスが良いです。

Q.学生時代に印象に残っていることはありますか
A.音楽が好きで、学外の多くのミュージシャンとバンドを組んでいました。ドラム担当です。博士課程で一番伸びたのはドラムの腕前です。レコード会社から育成契約の声がかかったこともありました。断りましたけど。

Q.大学生のうちにしておいた方が良いことはありますか
A.「恋愛」です。恋愛が苦手な人は親密な友人関係を構築することでも良いです。人間関係の距離感をぐっと縮めるということにトライしてみてください。そこで他人と関係を深めることの難しさを知ってほしいです。互いに近づきすぎていやな思いをしたり、けんかをしたりすることもあると思いますが、そういった経験をすることで、他人との良い距離感をつかむことができます。社会に出ると様々な人間関係を構築することになります。そのときに良い距離をとる感覚を身につけていると生きやすさがだいぶ変わります。大学生のうちに、恋人や親友などの友達より近い関係を築くことに努めてみてほしいです。

Q.東北大生に伝えたいことはありますか
A.信念を持って邁進することを心がけてください。自分の正しいと思っていることを軸にして努力してみるのが大事だと思います。その過程で間違いに気づいたり、後に黒歴史になっ たりすることもありますが、そのときには潔く方向転換すれば良いと思います。信念を持って邁進するからこそ間違いに気づくことができ、最終的には己を知ることにつながります。今信じて頑張っていることは社会に出て役に立つと思いますし、そのときに大学時代に頑張ったことは糧になります。また、文系の人にはなじみがないかもしれませんが、何でもいいので式を立てて考えてみてほしいです。些細なことで良いですし、簡単な四則演算でも良いです。生活の中にある物事を数値にして考えるというのをやってみると、世の中がより深く見えてくると思います。

学生が被災地に関わり続けることの意義-12年目の現場から-


高度教養教育・学生支援機構
松原久先生
B204
10/30(日)10:30-11:30

東北大学では、発災から12年目を迎えた現在でも、被災地に関わるボランティア活動等が継続してきました。そこで今回は12年目の現場における取り組みを紹介するとともに、①被災地②学生それぞれの視点から意義を提示します。また震災の経験をいかに未来の社会へつなげていくかという点も一緒に考えていきたく思います。

Q.今行おうとしている研究はどのようなものですか
A.東日本大震災のコミュニティーに関する政策的な課題を研究しようとしています。なぜこのテーマでやろうとしているかというと、学生ボランティアやその他NPOの活動を通じて、政策や財源がないとうまく回らなくなってしまうことを知ったからです。仮設住宅をどこに作るか、また誰に入ってもらうかは行政の政策次第です。研究対象としている石巻市の場合では、どこでもいいから早く作るという方針の影響で、元々同じ地域に住んでいた方がたがバラバラに住むという事案が起きてしまいました。これが震災後の話し合いでも難しい課題として議題に上りました。これをどのように対処すればいいのかということを研究論文としてまとめようとしています。

Q.ボランティアで一番大変だった時期はいつですか
A.私は東日本大震災被災地でのボランティア活動に10年近く関わっています。東北大学には2012年4月に大学院で来たのですが、当初は被災地との縁も全くなく、何かボランティア活動をしてみたいという思いだけがある状況でした。そのなかで、いろいろなご縁から石巻市で継続的な活動をさせていただくこ とになりました。ただ続けていくことの悩みや苦しさもありました。一つは、自分の研究や将来のことも考えないといけないなかで、どこまでボランティア活動に時間を割くのかという点です。またある被災者の方の事業をお手伝いしていたところ、様ざまな問題から事業がとん挫してしまい、その方とどう付き合っていったらよいかを問われるといった経験もしました。それでも現在まで活動に関わっているのは、活動を通した様ざまな人との出会いが、自分にとっての財産になっているという思いがあるためです。

Q.東北大、東北大生はどのような印象ですか
A.大学の周りには何もないという印象でした。コンビニも食堂もなく、生協がすべてを独占していました(笑)。自然環境が豊かだなと思いました(笑)。東北大生はいろんなタイプの子がいることが特徴だと思っています。印象的だったのは東北地方出身で地元に戻ることを前提で、公務員試験の勉強をしていたり地方銀行を目指したりと、東北に住むことを目的としている人がいるところです。その一方で首都圏から、専門的な研究を目的として来ている生徒もいます。宮城出身の生徒が1割しかいないということで地元感がなく、大学にいるとあまり東北に来たと実感することはないです。

Q.仙台の印象と宮城の食事について教えてください
A.都会だと思います(笑)。夏は涼しいです。仙台一極集中しすぎていて、仙台から出ずに生活できてしまいます。石巻や沿岸の荒浜など面白い地域があるので、是非足を運んでほしいです。おすすめスポットはやはり荒浜です。一番近くて行きやすく、アクアイグニスという温泉やリゾート施設もあり、その周辺に震災遺構である荒浜小学校もあって、無料で当時の様子などを知ることができます。楽しい面もあれば学習もできるので面白い場所です。宮城の食事は、どれもとても美味しいですが、特にホヤが良いです。ホヤ丼といって、白米にホヤだけをかけて、それをご飯にするのは美味しいです。あとは日本酒がおすすめです(笑)。日本酒はとても種類が多いし美味しいです。朝市の海鮮丼も最高です。そこには500円の海鮮丼もあります。居酒屋で牡蠣を蒸して食べたりするのも楽しいです。

Q.大学生に伝えたいことはありますか
A.ボランティアをやってみてはどうでしょうか。行って喜ばれることもあるし、自分も学べるところもあるからお勧めしたいです。被災地のために何かしたいと思っていなくても、一回やってみると、そこでいろいろな人との出会いがあるのでその中で自分の関心ややりたいことが見つかることもあるので、とりあえずやってみたら良いと思います。仕事を始めると仕事に追われて、時間が取れないです。ボランティアもそうですが、学外の人とのつながりを持てれば、自分の将来に対するアドバイスをもらえたりするし、色々な暮らしや生き方をしている人がいるということを学生時代に知れると面白いかなと思います。特に東北大生に伝えたいこととして、東北地方は震災について学んだり触れる絶好の場所なので、少しでも関わる機会を作っていただきたいです。東北大生は全国から集まってくるので、東北大で震災や防災について学ぶとそれが全国に広がるきっかけになります。ボランティアに限らず沿岸に行ったり、ガイドさんの話を聞いてみたりしてほしいです。

error:
タイトルとURLをコピーしました